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薬局の変形労働時間制の活用方法!導入のメリットと注意点を解説

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薬剤師における薬局やドラッグストアでの働き方は、勤務先によって忙しい時間帯や曜日、季節が異なります。昨今では、多様な働き方が求められるようになり、柔軟に労働時間を調整できる「変形労働時間制」を導入する薬局やドラッグストアも増えてきています。

 

本記事では、変形労働時間制の基本的な仕組みから、薬局やドラッグストアの労務管理での活用法、導入時のポイントまでを解説します。

 

変形労働時間制とは?

変形労働時間制とは、労働基準法で定められた労働時間制度の一つで、一定の期間内で労働時間を調整できる仕組みです。変形労働時間制を導入することで、営業状況や繁忙期に応じて労働時間を調整できます。

 

変形労働時間制には、適用期間に応じて以下の3種類があります。

 

  • 1ヶ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制

 

 

1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月の範囲で労働時間を調整できる制度です。週ごとや日ごとの労働時間を柔軟に設定できるため、毎月決まった時期に忙しくなる職場などには効果的な制度となります。

 

たとえば、毎月月末が繁忙期の薬局では、月末の所定労働時間を8時間30分、それ以外の日を7時間と設定し、労働時間を調整するなどが考えられます。通常は、法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えると割増賃金の支払いが発生しますが、1ヶ月単位の変形労働時間制の場合は8時間を超えて設定した日ついては、1日8時間・週40時間を超えても割増賃金は発生しません。

 

なお、1ヶ月単位の変形労働時間制は月単位で1週間の平均労働時間を40時間以内としなければなりません。ただし、特例措置対象事業場※では1週間の平均労働時間は44時間となります。

 

※特例措置対象事業場とは、労働者数が10人未満の商業(薬局・ドラックストア)、映画・演劇業、 接客娯楽業、保健衛生業(診療所、保健所など)の事業場のことをいいます。

 

※休日:毎週日曜、第1・第3土曜日、国民の祝日
※1日から24日まで1日7時間、26日から31日まで1日8時間30分。
参考:徳島労働局「1箇月単位の変形労働時間制」より編集部が作成

 

 

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1年間の一定期間を基準に労働時間を調整する制度です。

 

インフルエンザや溶連菌などが流行る繁忙期には労働時間を延長し、夏場など感染症が少ない閑散期には短縮することで年間の総労働時間が法定労働時間内に収まるよう調整できます。特に、季節ごとに業務量の変動が大きい職場では効果的です。

 

たとえば、12月と3月が繁忙期である職場であれば、12月と3月の所定労働時間を8時間30分、4月~11月の所定労働時間を7時間30分とすることで、メリハリのある働き方が実現できます。

 

なお、1年単位の変形労働時間制では1日の労働時間が10時間、1週間の労働時間が52時間までが上限です。また年間で1週間の平均労働時間が40時間以内としなければなりません。1年単位の変形労働時間制の場合は、特例措置対象事業場でも1週間の労働五時間は40時間以内となります。

 

【例】

 

参考:東京労働局「1年単位の変形労働時間制導入の手引」 より編集部が作成

 

 

 

 

 

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、1週間ごとの労働時間を平均して40時間以内に収めることを要件とした労働時間制度です。1日の労働時間を法定労働時間である8時間を超えて労働させることができますが、1日の労働時間の上限は10時間までとなります。

 

ただし、従業員が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店のみに適用が可能です。主に短期間で業務量が大きく変動する職場で導入されます。

 

参考:徳島労働局「1週間単位の非定型的変形労働時間制」

 

 

変形労働時間制の導入メリット

変形労働時間制にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、薬局やドラッグストアといった企業側のメリットと薬剤師側のメリットに分けて紹介します。

 

薬局側のメリット

変形労働時間制の導入における企業側の主なメリットは以下の2点です。

  • 業務量に応じた柔軟なシフト運用が組める
  • 人件費が削減できる

 

業務量に応じた柔軟なシフト運用が組める

変形労働時間制では、特定の期間(1ヶ月、1年単位など)を基準に労働時間を調整できるため、業務量に応じて柔軟にシフトが組めるようになります。

 

感染症が流行る繁忙期に労働時間を集中させたり、閑散期に労働時間を減らしたりするなどの対応が可能です。たとえば、朝と夜の勤務をローテーションしながら変形労働時間制で柔軟に対応することもできます。

 

人件費が削減できる

通常の労働時間では、1日8時間・週40時間の労働時間を超えれば割増賃金が発生します。そのため、繁忙期に時間外労働が発生しやすく、それが人件費増加の要因となります。

 

一方、変形労働時間制を導入すれば、繁忙期は労働時間を長く、閑散期は労働時間を短く設定することで、結果として人件費の削減が期待できます。

 

薬剤師側のメリット

変形労働時間制の導入における薬剤師側の主なメリットは以下の2点です。

  • メリハリのある働き方ができる
  • プライベートと仕事のバランスが取りやすい

 

メリハリのある働き方ができる

業務量に応じて労働時間を調整できるため、閑散期の無駄な残業が発生しにくくなります。さらに手待ち時間の減少につながるため、仕事の効率が向上され、従業員の不要なストレスを軽減できる効果が期待できます。

 

薬剤師さんの中には「暇なら早上がりしたい」という方も少なくないと思いますので、メリハリをつけた働き方が可能となるでしょう。

 

プライベートと仕事のバランスが取りやすい

変形労働時間制は繁忙期にしっかり働く分、閑散期は労働時間が短縮されるため、家族との時間や趣味の時間を確保しやすくなります。

 

また、閑散期にはプライベートの時間が増え、リフレッシュする機会が増えることで、薬剤師をはじめとする従業員の心身の健康維持にもつながります。

 

薬局での変形労働時間制の活用事例

実際に薬局やドラッグストアでは、どのように変形労働時間制を活用しているのでしょうか。ここでは、2つの事例を紹介します。

 

事例1:忙しい曜日や時間帯に患者が集中する場合

商業施設内にある薬局では、平日は比較的来客が少なく、週末になると患者が集中する傾向があります。通常の固定シフトでは、忙しい時間帯に人手不足が発生し、患者対応が遅れるという課題もあるでしょう。

 

そのような場合は、1ヶ月単位の変形労働時間制を導入すれば週末に労働時間を集中させることが可能です。たとえば、平日の勤務時間を6時間とし、週末の勤務時間を10時間とするなどです。

 

このように、1ヶ月単位の変動労働時間制を導入することで平日の閑散時間帯には人件費を削減でき、効率的な薬局運営が可能となります。

 

事例2:季節によって繁忙期と閑散期の波が大きい場合

花粉症の季節やインフルエンザ流行期など、特定の時期に処方箋の受付数が増える薬局では、繁忙期と閑散期の波が大きく、一定のシフトでの勤務管理が難しい場合もあるでしょう。

 

その場合は、1年単位の変形労働時間制を採用すれば、花粉症の季節である3月~4月やインフルエンザ流行期である12月~1月に労働時間を長く設定し、それ以外の閑散期には労働時間を短縮するなどのシフトが組めるようになります。

 

たとえば、12月~4月の労働時間を週50時間、5月~11月を週35時間とするなどが考えられます。1年単位の変動労働時間制を導入することで、繁忙期には十分な人員を確保することができ、業務が効率よく進みます。閑散期には薬剤師が休暇を取りやすくなり、ワークライフバランスの向上が期待できるでしょう。

 

また、年間の労働時間を平準化することで、残業代の削減ができ、コスト面でもメリットが生まれます。

 

変形労働時間制導入時の注意点

変形労働時間制は労働時間を柔軟に調整ができる分、導入時には法令を遵守し、薬剤師をはじめとする従業員に十分な制度周知を行わなければなりません。ここでは、変形労働時間制導入時の注意点を解説します。

 

法令遵守を徹底する

変動労働時間制度の導入に際しては、法令遵守を最優先に考えることが重要です。

 

企業には、設定した変形労働時間に応じて正確な労働時間の管理が必要になります。特に法定労働時間の管理や割増賃金の支払いなどは、従業員とのトラブルを避けるために不可欠です。

 

また、変形労働時間制を導入するには、就業規則に制度の内容を明記し、労使協定を締結・届出の必要がある場合もあります。法的な要件を十分に把握したうえで導入しましょう。

 

従業員へ十分な制度周知を行う

変形労働時間制の導入時は、従業員への制度の内容と運用ルールを徹底して周知しましょう。

 

従業員が変動労働時間制度の運用方法を理解しないまま運用を始めると、現場での混乱や不満が生じる可能性があります。導入前に従業員に対して十分な説明を行い、運用ルールを明確に伝えることが大切です。

 

まとめ

変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて労働時間を調整できる柔軟な制度です。薬局やドラッグストアでは、繁忙期に合わせて労働時間を調整することで、人件費の削減や従業員の負担軽減が期待できます。

 

一方で、導入の際には法令に則った運用や従業員への制度周知をしっかり行うことが重要です。変形労働時間制を適切に運用することにより、企業と従業員双方にとってメリットのある働き方が実現できるでしょう。

 

きた社労士事務所代表 北 光太郎
社会保険労務士。企業の労務担当として10年間労務業務に従事。開業後は、企業の給与計算や労働社会保険手続きのサポートに加え、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。読者にわかりやすく信頼できる情報を伝えるとともに、Webメディアの専門性と信頼性向上を支援している。

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