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【薬剤師向け】「育児・介護休業法」改正ポイント

2025年(令和7年)4月から、育児・介護休業法の改正が段階的にスタートしています。また10月から施行される制度もあります。今回の法改正は、働きながら子育てをする方や、両親や近親者の介護を担う方を支援するものです。本コラムでは、薬剤師を採用する人事担当者として知っておきたい法改正のポイントをわかりやすく解説します。
育児・介護休業法改正の背景
現在、少子高齢化により、育児と介護の両立を支援する社会整備が急務となっています。家庭と仕事の両立に悩みを抱える方が多くおり、中には仕方なく仕事をやめる方も。
薬剤師の場合は、国家資格ということもあり、いったん退職をして子供が大きくなったり、介護が落ち着いたりするタイミングで再就職をするという方もいますが、待遇に影響が出たり年収が上がらないといった問題があります。そして、昨今は物価高の影響もあり、仕事をやめることができないという方も増えてきています。
今回の育児・介護休業法の改正の目的は以下の通りです。
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- 男性の育児休業取得率の向上
- 育児・介護との両立がしやすい職場づくり
- 労働者が長く働き続けられる環境の整備
育児休業に関して【令和7年4月1日施行】
所定外労働の免除対象が拡大
これまで、3歳未満の子どもを養育する従業員には、所定外労働(残業)の免除申請が可能でしたが、今回の改正で対象が「小学校就学前」にまで拡大されます。薬局やドラッグストア勤務では、閉局後の後片付けや薬歴記載などで残業が発生することがありますが、この改正により、子育て中の薬剤師は残業を免除されることとなりました。
子の看護休暇の見直し
子の看護休暇制度とは、子供がケガや病気をした際に看護のために休むことができる休暇制度で、有給休暇とは別に取得できるものです(一般的に無給ですが、企業によって異なる場合があります)。原則として子ども1人につき年間5日の取得が可能です。
これまでは、対象となる子供の対象が「小学校就学の始期に達するまで 」となっていましたが、2025年4月1日からは、「小学校3年生修了まで」となりました。
また取得事由も拡大し、これまでは「病気・けが 、予防接種・健康診断」でしたが、新たに「感染症に伴う学級閉鎖等 、入園(入学)式、卒園式」も加わりました。
そして、本制度に関して除外できる従業員に「継続雇用期間6ヵ月未満」がありましたが、今回の法改正により除外規定が廃止されました。
時短勤務制度(3歳未満)の代替え措置にテレワークが追加
3歳未満の子供を養育する従業員は、一定の条件を満たせば時短勤務制度を利用することができるのですが、職種や業務によっては時短勤務が難しい場合があります。
これまでは、時短勤務制度の代替措置として「育児休業に関する制度に準ずる措置 」「始業時刻の変更等」がとられてきましたが、新たに「テレワーク」も代替措置に追加されました。
病院や調剤薬局などでの仕事は対面が基本となるため、テレワーク自体ができるものではないかもしれませんが、機械化を進めたり、役割分担を見直したりすることでテレワークの導入も現実的になるかもしれません。
育児のためのテレワーク導入
事業主は、3歳未満の子を養育する従業員がテレワークを選択できるように、措置を講じることが義務化されました。
上記のほかにも、「育児休業取得状況の公表義務適用が拡大されたこと」も改正点です。
介護休業に関して【令和7年4月1日施行】
介護休暇を取得できる従業員の要件緩和
これまでは「週の所定労働日数が2日以下」「継続雇用期間6ヵ月未満」の従業員は介護休業取得の対象から除外されていましたが、除外規定のうち「継続雇用期間6ヵ月未満」は撤廃されました。
ホワイトカラーに比べて転職回数が多いと言われている薬剤師。継続雇用期間が問われない点は良い点ですね。
介護離職防止のための雇用環境整備
介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下1-4のいずれかの措置を講じなければなりません。
1:介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
2:介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
3:自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
4:自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
介護に直面した旨の申出をした従業員に対して事業主は、介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行う必要があります。
【 周知事項 】
1:介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
2:介護休業・介護両立支援制度等の申出先
3:介護休業給付金に関すること
また、介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供も必要だとされており、情報提供期間は「労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間) 」もしくは「労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間」です。
介護のためのテレワーク導入
要介護状態の対象家族を介護する従業員がテレワークを選択できるように措置を講じることが、事業主に努力義務化されました。
【令和7年10月1日施行】柔軟な働き方を実現するための措置等
事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員に関して、選択して講ずべき措置の中から、2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。 そして労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
1: 始業時刻等の変更
2: テレワーク等(10日以上/月)
3: 保育施設の設置運営等
4: 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇 (養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
5:短時間勤務制度
※2と4は、原則時間単位で取得可とする必要があります。
※事業主が講ずる措置を選択する際、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。
そのほかにも、子が3歳になるまでの適切な時期に、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置として選択した制度に関する事項の周知と制度利用の意向の確認を、 個別に行わなければなりません。
子育て中の薬剤師の多くは、「子供が小さなうちはパートで働く」「子供の手がかかるうちは働かない」といった選択肢を取ることが多いですが、安定的な収入を得たい、キャリアアップをあきらめたくないといった薬剤師の方もいると思います。今回の改正により、働き方が選べるようになるのは良いことですね。
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮【令和7年10月1日施行】
事業主は、従業員が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、従業員の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する以下の事項について、従業員の意向を個別に聞く必要があります。そして事業主は、意向に関して自社の状況に応じて配慮しなければなりません。
1:勤務時間帯(始業および終業の時刻)
2:勤務地
3:両立支援制度等の利用期間
4:仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)
以上が、2025年4月1日と10月1日からの育児・介護休業法の改正ポイントでした。ここからは、同時期に創設された育児に関する新制度をご紹介します!この制度の活用により、家庭と育児のバランスがよりとれるようになるかもしれません。人事担当者の方は本制度の理解と周知を徹底しましょう。
【番外編】出生後休業支援給付金の創設でパパ育休が促進?
2025年4月から改正雇用保険法が施行され、新たに「出生後休業支援給付金」が創設されました。出産や育児はどうしても女性が負担を強いられることが多いのですが、本制度により「出生時育児休業(いわゆるパパ育休)」の取得が促進される可能性があり、職場復帰後の家庭と仕事の両立にもよい影響が出る可能性があると言われています。
出生後休業支援給付金とは
- 子供の出生直後の一定期間に、両親ともに(配偶者が就労していない場合などは本人)、14日以上の育児休業を取得した場合に最大28日間支給される給付金です。支給額は、休業開始時賃金日額※1×休業期間の日数(28日が上限)※2×13%なので、出生時育児休業給付金または育児休業給付金と合わせると、給付率 80%※3(手取り10割)となります。
※1同一の子に係る最初の出生時育児休業または育児休業の開始前直近6ヵ月間に支払われた賃金の総額を180で除して得た額。
※2支給日数は、対象期間における出生時育児休業給付金または育児休業給付金が支給される休業の取得日数であり、28日を上限とする。
※3育児休業中は申出により健康保険料・厚生年金保険料が免除され、勤務先から給与が支給されない場合は雇用保険料の負担はありません。また、育児休業等給付は非課税です。このため、休業開始時賃金日額の80%の給付率で手取り10割相当の給付となります。ただし、休業開始時賃金日額には上限額(2025年4月1日時点:15,690円(毎年8月1日に改定))があることにご留意ください。
人事担当者が職場で準備すべきこと
制度内容の理解と共有
薬剤師を採用する人事担当者は、本制度の詳細はもちろんのこと、育児・介護休業の条件や手続き等を理解し、職場内で情報共有を行うことが重要です。人事担当者だけが知っていてても意味はないので、きちんと周知しましょう。
人員計画と業務マニュアルの見直し
薬局や病院やドラッグストアは、一部の大手企業でない限りは、余剰人員を抱えるところはあまりありません。そのため、従業員の育休や介護休暇に備えて、マニュアル整備・交代体制の確保が必要です。必要があれば一定期間は派遣薬剤師を依頼するというのも手段の一つです。
管理薬剤師と人事部門との連携
人事担当者は、店舗の管理薬剤師や薬剤部部長などのマネジャー職が法改正を正しく理解しているかを確認する必要があります。従業員の中には、ライフイベントによるトラブルで、退職を選択せざるを得ない場合もありますので注意が必要です。
薬剤師が安心して働ける職場づくりを
今回の育児・介護休業法の改正は、薬剤師にとっては育児や介護を理由にキャリアを諦めない社会の実現に向けた一歩と言えます。そして人事担当者は、これらの制度を薬剤師をはじめとする従業員が使いやすくするための様々な工夫をしていく必要があります。人手不足の日本において、薬局やドラッグストア、病院という現場で働く薬剤師の生活とキャリアの両立をどう支えるかは、今後ますます重要なテーマとなりますので、ぜひこの法改正を前向きに捉え、準備を始めましょう。