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富澤崇の「薬剤師採用成功への道」第2回新卒採用計画の立て方(前編)
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新卒採用計画の立て方(前編)
編集部からのコメント
2021年4月の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が発表した薬剤師の需給推計は、当時の業界をざわつかせたニュースでした。あれから数年が経ち、需給推計によれば数字の上では供給過剰になっています。しかし、現場では薬剤師が余っているなんてことは1ミリも感じられないほど不足している状態です。
いった何が起こっているのか?という原因追及はさておき、薬剤師採用が至上命題となっている今、効果的な採用方法や計画の立て方を抑えておく必要があります。そこで本コラムでは、元大手調剤薬局チェ-ンの人事部長を経て人事コンサルティング会社を創業した富澤崇先生に「薬剤師の新卒採用・中途採用を成功させる勘所について教えていただきます。
第2回は、「新卒採用計画の立て方(前編)」です。
みなさんこんにちは!
パラレル(とっちらかった)キャリア薬剤師の富澤です。薬剤師、大学教員、大手チェーン薬局の人材開発部門の責任者、そしてコンサルティング会社の経営者をしています。薬剤師や薬学生のキャリアに全方位的に関わっています。年々人材採用の難易度が上がっていますよね。採用側の大変さもよくわかります。でも、残念ながら正しい手順で採用活動をできていない薬局・ドラッグストア・病院も多いなぁと感じています。まだまだ改善の余地はありますので、ぜひ本コラムでアップデートしてください。
採用目標人数の算出
採用計画を立てる上で、まずは必要な薬剤師の人数を明確にすることが重要です。適切な目標人数を設定するためには、以下のポイントを押さえましょう。
適正な人員配置を決める
・薬局では処方箋枚数、在宅医療に係る工数、物販の有無などに加えて、医療事務スタッフに計数調剤をどの程度行わせるか、薬剤師に処方箋入力作業をどの程度行わせるかを考慮して、適正な人員を算出します。
・病院では病棟業務、製剤、医薬品情報管理、治験、チーム医療活動などを考慮します。
将来の需給を見越す
・薬局やドラッグストアでは、出店や閉局の計画、エリアマネジメント(店舗間応援や急な離職への対応)も考慮します。
・薬局やドラッグストアにおいては、高齢者施設調剤の受注見込みや競合店の出店、クリニックの開局・閉局など、商圏のマーケティングにも注視しなければなりません。
新卒か中途か
毎年の離職者数をトレースしたうえで、不足分を新卒で補うのか、中途で補うのかを検討して、採用目標人数を決定します。
富澤さん

採用活動の棚卸
次に、自社が過去に行ってきた採用活動を振り返り、効果的な戦略を立案するための基盤を築きます。採用活動の棚卸を丁寧に行うことで、無駄を省きつつ、効果的な方法にリソースを集中することが可能になります。
成功事例と失敗事例を分析する
・過去に行った採用活動の中で、特に成果を上げた施策を洗い出します。たとえば、特定の大学との連携が功を奏した例やインターンシップの活用で応募者数が増加したケースなどです。
・一方で、応募者が集まらなかった媒体や歩留まりの悪かったプロセスについても分析し、改善点を探ります。
ポイント
・都心部:都市部の学生は、情報収集が活発で競合他社と接触する機会も多いです。そのため、インターンシップや個別説明会が応募者を引き付ける効果を持ちます。一方で、認知不足が原因の失敗もあります。
・地方:地方では、地元志向の学生を対象に地域密着型のアプローチが成功の鍵となります。たとえば、地元大学との関係強化や奨学金制度の活用が効果的です。
データを分析する
・大学訪問や合同説明会、求人サイト、SNSなど、利用した採用チャネルの効果を数値化し母集団形成プロセスを分析します。たとえば、エントリー数や面接通過率を測定し、コストパフォーマンスの高いチャネルを特定します。
・自社説明会や選考への移行率、内定受諾率など、歩留まりを把握します。母集団形成から選考、内定、入社までの各プロセスにおいて、どこに問題があったのかを分析します。
ポイント
・都心部では、求人サイトやSNSなどのオンラインチャネルが有効ですが、競合が多いため差別化が必要です。
・地方では、大学訪問や地元での合同説明会など、直接的な接触機会が効果を発揮します。
・大手企業は多様なチャネルを使い分ける戦略が求められる一方、中小企業は限られた予算内で高効率なチャネル選択が重要です。
ターゲット学生の傾向を把握する
病院勤務を希望する学生は、安定性や専門性の高さを重視する傾向があります。一方、薬局やドラッグストアを志望する学生は、ライフスタイルやキャリアの柔軟性を重視する場合が多いです。学生の志向や行動を理解し、それに応じた戦略を立てることが重要です。
ポイント
・大手企業:安定性や多様なキャリアパスを求める学生が多い傾向があります。全国規模の採用チャネルを活用し、多様な学生にアプローチすることがポイントです。
・中小企業:働きやすい環境や地域密着型の仕事を重視する学生に響くメッセージを発信することが効果的です。
富澤さん

戦略立案
母集団増か歩留まり向上か
採用戦略の基本は、「応募者の母集団を増やす」か「選考過程での歩留まりを増やす」か、またはその両方を重視することにあります。
・病院:専門性を重視する病院では、大量の母集団形成よりも、高い意欲を持つ少数の応募者を絞り込む戦略が有効です。選考過程での歩留まり増加に向けた工夫(早期接触や選考中のフォロー)が重要です。
・薬局:薬局では、多様な勤務形態を希望する学生に対応するため、幅広い母集団形成が求められます。オンラインセミナーやインターンシップを活用して認知度を高めることが効果的です。
・ドラッグストア:店舗数が多いドラッグストアでは、広範囲の母集団形成が必要です。全国の大学や薬学部に向けた大規模な情報発信が求められる一方で、選考歩留まりを高めるための魅力的なキャリアパス提案も重要です。
採用マーケティングの実践
マーケティングの視点を採用戦略に取り入れることで、効率的かつ効果的な活動が可能になります。
(1) 3C分析
市場・顧客(Customer):新卒薬剤師の市場や顧客である薬学生について理解します。毎年約9,000人が国家試験に合格し、そのうち約7割が薬局・ドラッグストアへ、約2割が病院に就職します。学生の大手志向はしばらく続くと考えられます。奨学金返済のために給与が高いドラッグストアを志望する学生が増えています。
競合(Competitor):地域や業種を踏まえて、自社にとってどの会社が競合になるかを考えます。その競合他社に見劣りしないようアピールポイントや採用条件などを比較します。大手チェーン薬局が毎年1社あたり300人や500人と大量採用する中で、差別化を図る必要があります。
自社(Company):自社の強みや特徴、ビジネスの特長、地域での競争優位性、資本力や人材力などを棚卸し、分析します。
(2) STP分析
S:セグメンテーション:都心部の学生と地方の学生、多様な業務経験を望む高い学生と安定志向の学生、高い待遇を求めている学生など、新卒薬剤師9,000人をセグメント分けします。
T:ターゲッティング:どのセグメントを自社の採用ターゲットにするかを検討します。たとえば、地方の薬局は「地元志向の強い学生」をターゲットにし、奨学金制度や地域貢献をアピールします。一方、都心部のドラッグストアでは「キャリア志向の学生」を対象にスピーディーな昇進のチャンスを訴求します。
P:ポジショニング:競合他社との差別化を意識し、自社がとるべきポジションを検討します。大手企業は「安定性とスケールの大きさ」、中小企業は「地域密着と働きやすさ」を打ち出して、それぞれの強みを際立たせます。
(3) ペルソナ設定
ターゲットとなる学生をモデル化し、出身地、額族構成、趣味、部活動経験、アルバイト経験、性格、志向性などを描写します。インターンシップ企画、会社説明会の資料、面接の進め方などあらゆる採用活動をこのペルソナに合わせて決めていきます。
自社ブランディングの強化
採用市場で目立つためには、自社の魅力を学生に明確に伝えるブランディングが不可欠ですが、意外と自分たちのことをわかっていないものです。客観的な視点をもって、競合との比較から自社の優位性をみつけましょう。
・病院:先端医療や高度な教育体制をアピールします。「専門性を追求できる環境」が魅力となります。
・薬局:地域医療への貢献や、ワークライフバランスを推進する取り組みを強調します。
・ドラッグストア:幅広いキャリアパスや、多店舗展開による成長機会を訴求します。また、都心部では「最新技術やアクセスの良さ」を強みとし、地方では「地域貢献やアットホームな環境」を打ち出します。大手企業は規模感や安定性を、中小企業は柔軟性や人間関係の良さを強調します。
富澤さん

まとめ
採用計画の初期段階である「採用目標人数の算出」と「採用活動の棚卸」は、計画全体の質を大きく左右します。自社に合った戦略を策定し、データドリブンな計画を立てることで、より良い採用結果につなげることができます。次回は、薬学生とのコンタクトポイントや採用活動のアクションプランについて詳しく解説します。

大手チェーン薬局にて人事・教育・採用部門の責任者、人事制度改革、ブランディング、新規事業創出プロジェクトなどに従事。
2017年株式会社ツールポックス創業、北里大学客員准教授兼務。