ホーム
- 薬剤師 人事向け記事一覧
- 西鶴智香先生直伝!医療機関のカスハラ対策
西鶴智香先生直伝!医療機関のカスハラ対策

薬局やドラッグストア、病院などの医療機関で働いていると、カスハラ(カスタマーハラスメント)を受けることがあると思います。今回は、薬剤師・看護師・他医療職のキャリア開発や人事コンサルティング、研修事業を行う西鶴智香先生に医療機関向けのカスタマーハラスメント対策をお聞きしました!
【相談】
薬をお渡した患者さんから、翌日、「この薬は効かないから返したい。その分のお金を返してもらいたい」と強い口調で言われました。説明してもなかなか納得してもらえず上司が代わって対応してくれて終わりました。こんなカスハラ、よくあることなのでしょうか。(新人薬剤師)
それは、カスハラ(嫌がらせ)?クレーム(要求)?
実はこちらの相談について、詳しい状況を聞くことができました。前日の服薬指導の際、患者から、「出てる薬だけど、もっと効くものは扱ってないのか」と訊かれたそうです。薬剤師は、「扱っていますが、、変更するには医師に連絡をしなくてはいけないのでお待ちいただけますか?」と答えたら、「医師に言わなくていいので、こちらで変更してくれないか」というやり取りがあって、それは出来ないというと、患者は怒って、「時間もないのでもういい」と言い放ち、帰宅したとのこと。そして翌日、このご質問のようなことが……。
この薬剤師は新人で経験も浅く、「昨日の患者だ、また怒っている。どうしたら納得してもらえるのか。お金を返してと言われても返せない」。困った挙句に上司が代わって対応し、納得してもらえたようですが、この後上司から、具体的対応について指導を受けたようです。
さて、これは「カスタマーハラスメント」でしょうか?ハラスメント=患者からの「嫌がらせ」のことですが、この薬剤師は、そもそも出来ないことを一方的に責める面倒な患者、と捉えたようです。実はこの話の全容はこうです。
この患者は、出された薬を以前服用したことがあり、以前服用した際にはその痛み止め薬はあまり効果がなかった。
だから別の、もっと強い効果が期待される薬に替えてもらいたかった。
診察の際、医師に言えばよかったのですが遠慮してしまい、言えなかったので、薬局で薬剤師に伝えようとしていたのです。
相手は何を言いたいのかに焦点を
「もっと効くものは扱っていないのか」という質問を受けた際に、「あれ?以前に服用したことがあるのかな」と気づくこと
ができれば、その後のやり取りにはなりませんでした。
「もっと効くものをとおっしゃいましたが、以前にも服用されたことがおありでしたか?」
「あまり効果を感じられませんでしたか?」と確認をする場面ですね。
薬剤師の話だけを聞くと、この患者は、「返金を要求するイヤな患者」「対応が難しい患者」「カスハラ患者」とレッテルを貼ってしまいそうですが、この場面の一番の問題は、薬剤師のコミュニケーションスキルの不足だということになります。
必要なことは、「カスハラ患者の対応の練習」よりも、「相手は何を言いたいのか」をしっかりと聴けるスキルを身につけることです。
「カスハラ」って、医療現場ではどのように対応していますか?
皆さんは、相手から、業務の進行に支障をきたすほどの長時間の接触を受けた経験はおありでしょうか?
筆者が見聞きした、医療現場でのそのような場面は幾つかあります。
【薬局】
・なぜこんなに待たせるのかと、大声で、近くにいたスタッフに延々と怒り続ける
・対応が悪いと怒り、上司と交代すると、会社の接遇教育がダメだと全否定、その必要性を懸命に訴える
・以前対応してくれた薬剤師がいいと言われ交代したが、その後、1時間以上にわたり一方的に話し続ける
・なぜこんなに料金が高いのかと怒りだし、院外処方の無意味について延々と説き続ける
【病院】
・時間がかかりすぎる、と受付でひたすら怒り続ける
・リハビリの順番が前後したと怒り、スタッフに怒りを爆発させる
ハラスメントへの対処法を身に付ける
上記の場面で、例えば、患者から指名され、悩みを吐露してもらうことは、医療人として大きな信頼を受けていることであり、とても嬉しい話ですが、業務に戻れないほど長時間拘束されてしまうことは望んでいないはず。話は聴くが、あくまでも薬の専門家としてであって、彼氏(彼女)でもないし、友達でもない。
患者と専門家という距離感を上手く取れる関係づくりを目標にしましょう。自分の専門外の相談には、他所を紹介したりして、途中で話を切り上げるスキルも身に付けたいですね。
最後に、以前ストーキングされた薬剤師の相談を受けました。自分で対応できない悪質なハラスメントは、会社に相談し、早急に対応してもらうことをお勧めします。
クレームにはしっかりとした返答を
また、他の場面でもいえますが、「~について、わかってもらいたい」「~すべきなのに、おかしいと思う」という自分の考
えについて、同調してもらいたい気持ちの表れの場面、が多いですね。
「大きなストレスを感じたことをわかってもらいたい」、そして、「それはこう直していくともっといい」、と伝えている場面はよく見つけられます。
そうなると、カスハラと一言で片づけず、患者からの要求だ(=クレーム)と理解し、対応することが大切です。こういった場合は、「ご不便おかけして申し訳ございません」「ご指摘、有難うございます」「大変参考になります」等、お詫びだけではなく、指摘への感謝、不便への謝罪に加え、今後の活用についてのコメントをお忘れなく。
他業界でのカスハラ
筆者は見た!「今、言ってもどうにもならないことを延々と・・」
・鉄道トラブル
鉄道が不意の事故やトラブル、急な天候変化で、運行時刻が乱れることはよくあること。それを見越して行動する
ことが大事だと、私達は学んできましたが、よく改札口で駅スタッフに詰め寄っている方を見ますね。
なになに?と近寄ってみると、「いったい、いつ動くんだ!」「なぜこんなに頻繁に起きるのか!」「アナウンスがわかりにくい!」「動く時間をはっきり言ってくれ!」等々、駅スタッフがお気の毒になるくらい、声を張り上げて怒っています。
「だから、こっちもわかんないんだよ!わかればすぐに言うよ」って言い返したいのでしょうけど、そこはグッと我慢している駅スタッフの方々。張り紙や電光掲示をしているにも関わらず、延々と、続々に、いろんな角度からの人の怒声を浴びて、本当
にお疲れ様です。
・コンビニエンスストア
「コンビニエンスストアでの対応に腹が立ち、直接本部に電話して、自分の言い分を延々と伝えた!相手は、おっし
ゃる通りでございます、と謝ってくれた。1 時間くらい話したよ、大企業なのに教育ができてなくて驚いた」と、自分の行
動を得意げに話してくれた知人がいました。1 時間もその話を延々と聞いたとは、仕事が滞り、大変なことでしたね。
・飛行機トラブル
飛行機に乗っていた時のこと。あと 30 分くらいで着陸になる際に、一人の客がCAを呼びつけて、延々と説いてい
るので、何かと思い聞き耳を立ててみると、「今日はいつもの飛行ルートではない。なぜ変更したのか。しかも事前の
通知がなかった」という内容でした。CAは事前通知していないことをひたすら謝り、変更したのは天候やその他の事
情があってのことだと説明してましたが、相手は納得せず、延々......。本当にお疲れ様です。
ところで、いったい何が目的なのかといぶかしく思い、勝手に、想定されることを幾つか挙げてみました。
1:CAと親密に話したかった
2:自分が航空業界に詳しいということを知ってもらいたい
3:いつもと同じルートでないと不安を感じる気質のため着陸が恐ろしくなった
4:何かに言いがかりをつけてストレスを発散させたかった
本当は何なのでしょうか。
「こうあるべき」が強すぎると、相手に怒りや葛藤を感じる
自分が何事に対しても、「こうあるべき」という思考のタイプの方は、そうしない相手に対して、怒りや葛藤が大きくな
るといいます。(デビッド・バーンズ、認知の歪み理論*より)
*認知のゆがみとは、物事の受け止め方や解釈に偏りが生じる心理的な現象。
大体において、人がある行動を取る際には理由があるわけですが、特に、度が過ぎるクレームやハラスメントには、本人が抱えている大きなストレスが要因となっていると感じています。
「こうあるべきなのにどうしてしないのか」の発言の元は、相手に対する怒りです。もちろん、自分の側に原因があるクレームは改善せねばなりませんし、指摘してくださったことに感謝を伝えるのは基本です。
ただ、度が過ぎるクレームやハラスメントの場合は、薬剤師は、患者のそういった行為の背景には何があるのかを深く観察し、患者理解を深めることを忘れてはいけません。薬剤師との会話によって、患者の抱えるストレスが少しでも軽減され、心身ともに健康な生活を送れることにつながってもらいたいですね。
