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【連載:薬局の独立①】 「人脈」と「情報」がもたらす無双の「強み」<メディテール宮田武志氏>

医療費適正化を目的とした調剤報酬の改定に同業他社との競争激化など、薬局を取り巻く環境は年を追うごとに厳しさを増しています。そうした中でも、かかりつけ薬剤師として培ってきた専門性の発揮や在宅医療への参画など、独自の「強み」を活かすことで、自らが描く理想の薬局像を実現するための道筋を模索する薬剤師は少なくありません。そんな独立志向の薬剤師に必要なことは何か――連載をスタートするにあたって、薬局ならびにドラッグストアに特化した経営支援に携わるメディテール(本社千葉県)の宮田武志社長に伺いました。

株式会社メディテール 代表取締役社長(薬剤師) 宮田 武志 氏
取り巻く環境厳しくも独立のチャンスはある
調剤などの「対物業務」から薬歴管理や服薬指導など「対人業務」の評価にシフトした近年の調剤報酬改定は、薬局経営にとって厳しい内容になっています。かつてのような政策誘導による処方箋発行を促す時代はとうに過ぎ去り、「かかりつけ」機能の発揮に地域医療への貢献など、薬局ならびに薬剤師業務の質的向上をいかに実現するかに重きを置いた制度設計が進められています。今後もそうした厳しい環境が続くことが予想されます。それでも薬局経営者として「独立」を志向する薬剤師は少なくなく、一定数の需要があるといわれます。私自身も、そのチャンスはまだあると見ています。
どの産業でもそうですが、取り巻く環境が厳しくなっても、例えば自動車業界なら「車」がなくなるわけでもない。流通業界なら「コンビニ」が突然消滅するようなこともありません。
薬局業界も少子高齢化が進行し外来処方箋は減少傾向をたどっています。右肩上がりで順調に推移してきた医薬分業率も頭打ちです。そんなネガティブな因子が散見される中でも、自身の「強み」を活かしながら切磋琢磨しチャンスをつかもうとする薬剤師は確実にいます。さらに、年齢を積み重ねることで引退を余儀なくされる医師と新規開業に意欲を見せる若い医師が、新旧交代の新陳代謝を繰り返す。だからこそドラッグストアは、積極的に調剤事業に進出し業容を拡大しようとしています。
また、地域によっては処方箋が広く拡散する面分業が進んでいる場所もあります。そうした地域の住民は「薬局は選べる」との意識が強い傾向にあり、そこで「強み」やコミュニケーション力を発揮できるのであれば、たとえ後発であっても選んでもらえる可能性は十分に残されています。独立を志す薬剤師にとって、決して「入り口」が閉ざされているわけではありません。
独立形態は「新規開設」「M&A」「事業承継」
薬剤師が独立する形態としては、おおむね3つのパターンが考えられます。まずは「ゼロからの新規開設」、これに既存薬局の「M&A」と「事業承継」です。
「新規開設」は既存の医療機関が院外処方箋に切り替えるパターンと、新たに開業する医療機関との医薬分業という2つの形態が想定できます。前者については、医療機関がこれまで基本的に医薬分業はしないというスタンスできているので、院外処方箋の発行を求めるにはそれなりのハードルがありますが、いざ院外処方に切り替えるとなれば、一定数の患者をすでに抱えていることなどから経営判断に必要な数字が読みやすく、営業初月からある程度の売り上げを見込むことができます。後者の新規開業の医師と一緒に開局するケースでは、例えば心療内科の医師など特殊な診療科で様々なところから患者が集まってくるような条件が整っていれば、ある程度の売り上げが見込めるかと思います。ただ、医師次第の側面は否めません。
またゼロから新規で開設するに際して忘れてはならないのが、資金面の現実です。新規開設の場合、賃貸テナントで20〜30坪程度の一般的な規模を想定すると、物件取得費や内装工事、調剤機器・レセコン、初期薬剤仕入れ、各種申請費用などを含め、総額で1,500万〜3,000万円程度を見込むケースが多くなります。内装や機器を抑え、居抜き物件を活用できれば1,500万円前後で収まることもありますが、立地や仕様にこだわれば3,000万円を超えることも珍しくありません。
一方、事業承継やM&Aによる独立では、初期費用の性質が異なります。内装や設備はすでに整っているケースが多い反面、営業権(いわゆる「のれん代」)や薬剤在庫・固定資産の引き継ぎ費用が発生します。小規模な1店舗薬局であれば、総投資額が2,000万〜3,000万円台で収まることもありますが、一定の利益を安定して出している薬局の場合、営業権を含めて4,000万〜5,000万円規模になるケースもあります。

上記を踏まえて、独立するに際しての障壁が少ないという点では「M&A」と「事業承継」が有力な選択肢となります。いわゆる「のれん代」がどこまでコストが掛かるかという問題はありますが、それまで営業してきた店舗なので患者の傾向や売り上げ見込みなどの経営数値もつかみやすい。また既存の備蓄医薬品もそのまま譲り受けることができるので、承継後の借入金がどの程度必要か、経営が軌道に乗るまでどのくらいの期間がかかるかなど、ある程度の予測が可能です。ただ、開業直後は売上が安定しないことを前提に、家賃や人件費、追加の薬剤仕入れに充てる運転資金として、少なくとも3〜6ヵ月分、数百万円規模の余力を確保しておくことが重要です。調剤報酬は請求から入金まで一定のタイムラグがあるため、この点を軽視すると資金繰りに窮するリスクが高まります。
承継案件ではすでに処方箋枚数や収益構造が見えているため、投資回収期間はゼロから新規開設より短くなる傾向があります。新規開業では黒字化までに数年を要することが多いのに対し、承継では比較的早期に経営を軌道に乗せられる可能性がある点は、大きな違いと言えるでしょう。
中小薬局が後継者不足に頭を悩ませる一方、2022年度の調剤報酬改定では300店舗以上の同一グループ薬局の報酬が引き下げられたことで、大手チェーンには一部事業を切り離そうとする動きもあります。そうした状況は、独立を目指す薬剤師にとって大きなチャンスと言えます。
情報戦を勝ち抜き、独立の目的と目指す薬局像の確立を
このように独立のパターンは幾つかありますが、いずれのケースでも大事なのは、自身が培ってきた「強み」をどう活かすことができるか、です。強みにはもちろん、薬剤師としての資質や研鑽を積み重ねてきたスキルといったことがありますが、独立を志向する薬剤師に最も必要な素養は幅広い「人脈」の構築、そしてそれらがもたらしてくれる有益な「情報」の活用に尽きるように思われます。
院外処方箋を発行していない医療機関をいきなり訪ね、医薬分業をしませんかでは、思いが叶うことなど無いのが現実でしょう。開業を志す医師のほとんどは「勤務医」です。国家試験に合格して、すぐに開業する医師など、まずいません。ほとんどが病院などの勤務医としてキャリアを積み、チャンスを見計らいながら開業を目指すというパターンが主流です。つまり、新規開業医との医薬分業を実現させるためには、そうした志を持った医師がどこに存在するのか、「情報」を的確にキャッチする必要があります。
当然ことながら病院の医局には、それなりの情報が集まっているはずです。しかしながらそう簡単に、その情報にアクセスすることはできません。当該病院に勤める薬剤師や看護師、さらには臨床検査技師や事務員などとの「人脈」を築くことができるならば、そうした有益な「情報」に近づくことができるでしょう。
医療機関をユーザーとする製薬企業のMRや医薬品卸業のMSらも同様です。独立して開局した経営者にMRやMS出身者が少なくないのには、そんな事情が横たわっています。とりわけ医薬品卸業には医師の開業を支援する部隊が組織されていることも多く、開業を目指す医師の情報を集積しやすい環境が整っています。もちろん卸側にとってもメリットがないと、おいそれと情報は開示してくれないでしょうが、卸業との関係を深める中で、独立に向けての確かなプランと自身の薬局薬剤師としての資質やスキルが評価されれば、医師の開業支援のパートナーとして選定される可能性だってあります。現在勤務している環境下で、どれだけの人脈を構築し情報収集へとつなぐことができるのか。それを「強み」として培うことは独立への第一歩となるに違いありません。

もちろん強みは人脈や情報だけにとどまりません。自身が身に付けたスキルを活かし、例えばそれが在宅医療の経験であるなら、人脈と情報をバックボーンにした「在宅専門薬局」の開局も視野に入ってくるでしょう。施設在宅の場合だと、処方箋発行医だけではなく施設との連携も大切になってくるので、そこでの人脈づくりも強みの一つになってきます。
地域の医療事情への目配りも重要です。これからの薬局経営には地域との連携が不可欠な要素で、そんなことは知らないよでは済まされない時代です。地域医療体制における自身の薬局の立ち位置と役割を明確にすることが求められてきます。
その意味においては、何のために独立するのか、独立してどんな薬局にしたいのか、そうしたことを自身の中で思い描き「事業計画」をつくることが極めて大事な作業になってきます。雇用された環境では当該企業の経営方針に縛られ、自身が思い描く理想の薬局づくりに注力することはなかなかできません。独立することで、さらなる利益を得るということは当然あるわけですが、地域の医療の中でどんな貢献をしたいのか、どんな役割を果たしていきたいのか、処方箋発行医らとどのような医療に取り組んでいきたいのか、そうしたことを明確にしていくことが重要です。
そうした全体像を確立することからすれば些細なことにはなりますが、薬局が許認可事業であるため、行政手続きのスケジュール管理のほか、資金面のリスク管理にも気を付けたいところです。開業資金にはそれなりのコストが掛かるのはもちろん、とりわけ保険診療報酬は請求から支払いまでのサイトが三カ月となっていることに留意しなければなりません。かつてなら多少の融通が利いたこともありますが、債権管理が厳しくなっていることなどから、卸は支払いを猶予はしてくれません。人材不足は派遣薬剤師を手当することなどでカバーできますが、キャッシュフローの問題で行き詰まると黒字倒産の憂き目にも遭いかねません。資金面のリスク管理には注意を払う必要があります。
調剤報酬にとらわれない柔軟な発想が必要
これから独立を考えている薬剤師には、開局を考えている地域の医療にどう関わっていきたいのか、さらに言うなら、日本の医療を支えていくために、どのような役割を果たしてしていきたいのか、薬局薬剤師として、薬局経営者としての高い「理念」をもって取り組んでほしいとの思いがまずあります。その上で期待したいのは、調剤報酬というフレームに縛られない薬局経営を目指してほしいということです。
先述したように2年に一度の報酬改定は厳しさを増すばかりです。ともすれば、改定された点数を獲得するためにはどうすればいいのかというテクニカルな側面ばかりに思考がとらわれがちで、それが目的になっていることもあります。あまりにも調剤報酬の枠内にとらわれ、発想の自由度や経営の柔軟性が失われているような気がしてなりません。経営者が調剤報酬しか見なくなれば、そこで働く薬剤師も調剤報酬しか見ない業務に陥ってしまいます。仮に調剤報酬がなくなって、これからは自由にやってくださいとなったとき、長年染みついた思考パターンを捨て、果たして的確な対応ができるのどうか、私は懸念しています。
地域に良質の医療を提供することは処方箋調剤に限りません。薬局という枠を超えた地域医療への貢献を目指すには、もっと様々なメニューを用意できるはずです。そのためには、例えばリソースの9割を調剤報酬の対応に振り向けても、1割は「自由度」として残しておく。そうしないと薬局の成長力は、どんどん奪われていくような気がしてなりません。