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【連載:薬局の独立②】起業家の視点から~事例#1「フィーリス(富山)」~

目指す薬局像固め「覚悟」もった起業を

株式会社フィーリス 代表取締役(薬剤師) 奥田 武詩 氏
富山県で2薬局を展開するフィーリス(本社富山市)の奥田武詩氏は、薬歴とDXの充実強化で人に向き合う「日本型次世代薬局」モデルの確立を目指しています。「理想的な薬局像の実現を将来目標に掲げ、業界を変革してやろうほどの意気込みで取り組めば、これ以上のやりがいはない」と起業の魅力を語る一方、独立に向けては強固なビジョンに裏打ちされた「覚悟」が大切と戒めます。その上で奥田氏は、「ワクワクしながら」起業に挑戦するような意欲溢れる薬剤師の出現を心待ちにしています。
「薬歴」と「DX」で「日本型次世代薬局」構築目指す
患者さんを継続支援する土台としての「薬歴」と患者さんに向き合う時間を確保するための「DX」を活用して「日本型次世代薬局」を構築したい――これが50代にして私を起業へと導いたモチベーションの一つです。
現場に長くいると、薬局が本来果たすべき役割と実際との間にズレを感じる場面が出てきます。もっと丁寧に患者さんに向き合いたい。地域に信頼される存在でありたい。仲間が誇りをもって働ける場所をつくりたい。そんな患者さんにとって真に必要とされる薬局を本気でつくるなら、自らの責任で経営を担うしかないと思い至ったからです。
私は薬歴を単なる記録とは考えていません。書いて終わりではなく算定や監査のために整えるものでもありません。薬歴は患者さんの服薬状況や副作用歴のほか、生活背景やこれまでの介入履歴、医師への提案内容など、次の継続的支援につながる情報として積み上げていく土台です。この薬歴を対面の服薬指導だけでなく在宅医療や服薬後のフォロー、さらには多職種連携にも展開していく。そこまでのことを含めて薬局の価値を高めたいと思ってきました。
DXにしても薬局業務を便利にするためのものとは考えていません。DXの利活用は薬剤師の仕事を楽にするものではなく、薬剤師が本来やるべきことに時間を戻すためのものです。情報整理に共有、確認、記録し運営管理の精度を上げることで、患者さんと向き合う時間や考える時間、提案する時間を増やしていく。DXが進展すればするほど人に向き合う力が大事になります。また、そのためのDXでなければ意味がないと思っています。

これからの時代には、ただ薬局を開設するだけでは充足されず、どんな価値を生み出す薬局なのかが問われてきます。薬歴をどう活かすのか、DXをどう使うのか。薬歴もDXも道具ではなく人と仕組みの問題なのです。使い方によっては時間が経つほどに差が出てきます。その上で人をいかに育て地域にどう関わっていくのか。そこで初めて次の時代の薬局経営となります。テクノロジーだけが進化した薬局ではなく記録と継続支援をする力、そして患者さんに向き合う力を仕組みとして強くする。そんな薬局こそ、私が目指す「日本型次世代薬局」の姿です。
この日本型次世代薬局を国内で磨き上げ、形にすることで海外展開も視野に入れたい。当面は在留邦人数が7万人以上とされ旧知の知り合いもいるタイで、日本で磨き上げた次世代薬局を展開していきたいと考えています。
起業の動機は私利私欲でなく「利他」であるべき
起業のもう一つの目的に、独立を志す若い薬剤師が夢だけで終わらず、現実に一歩を踏み出せる環境をつくっていきたいとの思いがありました。地域に必要とされる薬局を自分の手でつくりたい、いつか独立したいと考えている薬剤師にとって、経営をはじめ資金、採用、給与、教育体制、制度対応まで含め挑戦できる環境は十分に整っているとは言えません。現場を知って経営を学び、人を育てながら制度とも向き合い、自らの責任で地域に貢献していく。そういう薬剤師が一人でも多く育てば、薬局業界はもっと強くなるはずです。私は自店を自らのための「箱」としてつくったのではなく、将来、独立を目指せる人材を育てるための母体となるよう会社を立ち上げました。これからもその基盤をつくり続けていきたいと思っています。
私がこれから特に大事だと思っているのは、将来独立しても通用する人材を育てられるかどうかです。採用も教育も単なる人手の確保ではなく、次の経営者候補を育てる視点が重要です。
社是には京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉「動機善なりや、私心なかりしか」を掲げました。行動の原点が「正しい」か、そこに「私利私欲」はないか。独立は自己実現とも言えますが、動機が見栄や自身の都合に寄ってしまうと経営は長続きしません。自分のためでなく患者さんや地域、これから育つ人たちのために本当に必要な基盤をつくるという気持ちがなければ責任を負うことなどできません。
大変だったのは正解のない中で決め続けることでした。資金面の不安、人の問題、制度や必要な届出への対応など、薬局は医療機関なので曖昧なまま進めるわけにはいきません。独立すると全てが自分事です。そんな苦しいときに必要なのは経営者が心を高めること、環境のせいにする前に自らの考え方と判断の質を上げることが先決と考えてきました。最初の土台づくりを軽視しない。その視点が苦しい時期を乗り越える支えになりました。
成功するのは明確な必要性がある薬局
ゼロからのスタートとなる「新規開設」を独立の手段として選択したのは、その土台となる薬局の考え方や文化、運営の基準に組織の空気感などを最初からつくりたかったからです。確かに他の起業パターンに比べ、立ち上がりは一番苦しい。とりわけ当初の数年は経営体力が問われます。ただ、薬歴の考え方やDXの活用を例にとれば、後から修正するよりは最初から自分の基準で設計したほうが強固なものになります。自らの手で標準モデルを構築する意味合いは大きいと思っています。
すでに実績がある「M&A」のメリットは立ち上がりの早さですが、表面上の数字ではなく当該薬局がどんな基準で運営されてきたかを見極めないと危険です。培った地域の信頼関係を受け継ぐことができる「事業承継」も、守るべきものと変える必要があるものを見極めることが重要で、変え方を間違えると信頼を落とすことにもつながりかねません。
どの方法が正解かではなく、自分が何を一番大事にしたいかで選択すべきです。私は一から土台をつくりたかった。新規開設が最良の選択肢でした。

成功する薬局は、誰にどんな形で必要とされる薬局なのかがはっきりしています。地域との関係づくりも大事にしている。他職種ともつながっている。人が辞めても運用に不安はない。そういう薬局は制度が変わっても崩れにくいものです。さらに言えば日々の判断にブレがありません。売り上げが厳しいときでも人が足りないときでも優先順位が明確です。経営者の考え方が現場まで伝わっている薬局は強いと思います。
逆に苦戦する薬局は、立地や処方箋発行元には意識が向いていても自らの役割が曖昧です。何となく店を開けて何となく運用していると、人の入れ替わりや制度改定で一気に苦しくなります。薬局経営は感覚だけでは続かないと私は強く感じています。
薬局に求められる役割は大きく変わってきました。昔のように医療機関の門前で処方箋を待っていれば成り立つ時代ではなくなってきています。門前ではなく面での処方箋応需、かかりつけ機能の強化、在宅医療に多職種連携、さらには地域との連携や制度対応まで、薬局として何を担うのかが問われる時代となりました。
私自身、2店舗を運営する中で、同じ薬局事業であっても考え方が全く違う経営があることを日々感じています。件数をしっかり積み上げることが大事な店舗もあれば、単価や機能を高めることが大事な店舗もあります。高単価で信頼を積み上げる方法もあれば、高枚数を安定して回す手法もある。これから独立する人は、ただ薬局を開くのではなく、自分はどの形で勝負したいのかを考えないといけない時代になったと思っています。

公的保険制度下の薬局経営の特殊性に留意
薬局の独立が他業種と大きく異なるのは公的医療保険制度の中における事業だということです。制度の中で信頼を得て、継続して責任を果たしていかなければなりません。中でも特有なのは資金の流れで、備蓄薬品の仕入れや人件費、家賃などの支払いがあった後に保険請求による入金があります。手元資金が乏しければ経営は苦しくなります。初期費用についても内装や機器だけのことを考えていては危険です。開局後の一定期間の人件費と運転資金まで目配りするなど、経営が軌道に乗るまでの資金計画が大切です。
実務面でまず大事なのは、どんな役割を果たす薬局なのかを考え立地だけで判断しないことです。どの医療機関の門前か近隣かだけではなく、自らの薬局がその地域でどんな役割を果たすのかまで考える必要があります。
採用を後回しにしないことも大事です。薬剤師と医療事務スタッフをどう組むかで、開局後の安定感は大きく変わります。
もう一つは届出や記録を事務作業だと思って軽く見ないことです。独立直後はどうしても売り上げばかりに目が向きますが、あとで経営を苦しめるのは制度対応や日々の運営の甘さだったりします。私は、制度対応は守りの仕事だとは思っていません。自分たちがどんな薬局でありたいのかを社会に示すものだと思っています。経営者が何を大切にしているかは必ず現場に滲み出ます。だからこそ、届出、掲示、Web公開、記録の整備まで含めて経営者の覚悟が問われてくるのです。
私は、それら人の問題と日々の運営の弱さをカバーし支えるためのツールとして「薬局安心パック」(https://www.feeliz.co.jp/ansinpaku)を開発し提供しています。これは法令対応やサイバー対策のほか、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)や掲示物を「作るだけ」で終わらせず、日々の業務の中で無理なく回せる状態(=運用)と提示できる証跡まで整えるための月額定額サポートです。
私自身、これまで薬剤師として現場を経験し、現在は経営者の立場となって困るのは、理屈が分からないことより分かっていても手が回らないことだと感じています。「薬局安心パック」は、そこを埋めるためのツールです。足元をきちんと固めることで、結果的に薬局経営を守ることにつながると思っています。
独立は自由を得ることでなく「責任」を背負うこと
これから起業を目指す人にお伝えしたいのは、独立とは自由を得ることではなく責任を引き受けることだということです、そこで問われるのは知識や技術だけではなく責任の持ち方です。患者さんの健康は当然のこととして、地域からの信頼やスタッフの生活、さらには資金繰りから制度対応まで、その全てを自らが責任をもって背負う立場になる。それが独立です。
だから、「覚悟」のない起業は勧められません。現状への不満の延長で独立したところで成功はしないでしょう。ただその一方で、本気で地域に必要とされる薬局をつくりたい、自らの考えで経営したい、仲間と理想の組織をつくりたい。さらには一歩踏み込んで、心躍るワクワク感を抱えながら自らの力で業界を変革してやろうとまでの気概がある人にとって、これ以上やりがいのある挑戦はありません。
そして先に紹介した社是、「動機善なりや、私心なかりしか」が意味することを繰り返すなら、自らの動機が本当に善いものなのか、自分のためだけになっていないかを問い続けることが肝要です。独立は大きな夢であると同時に、多くの人の人生を背負う決断でもあります。それを問い続けることは経営者として、一番大事なことだと思っています。